大判例

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大阪高等裁判所 昭和57年(う)509号 判決

【主文】

原判決中、被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役三年に処する。

原審における未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入する。

押収にかかる、チャック付ビニール袋入り覚せい剤一袋(当庁昭和五七年押第一八一号の一)を没収する。原審における訴訟費用中、証人新内克幸、同福馬隆司に支給した分の二分の一を被告人の負担とする。

【理由】

第一、弁護人の訴訟手続の法令違反の主張について

論旨は、原審裁判所は、検察官の請求により訴因の変更を許可したが、起訴状記載の公訴事実第一と訴因変更請求書記載の事実との間には公訴事実の同一性がないから、右の訴因変更を許可した点につき違法であるのみならず、起訴状記載の公訴事実と同一性を欠く事実を認定して被告人を有罪とした原審の訴訟手続には法令の違反があり、その違反は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

そこで、所論にかんがみ記録を調査・検討するに、本件起訴状記載の公訴事実第一には、「被告人は高藤こと高〓三、通称キタこと氏名不詳者と共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、昭和五六年六月八日午後一一時五〇分ころ、大阪市都島区中野町一丁目一番五号『さぬき家』前路上に駐車中の普通乗用自動車内において、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶状粉末50.906グラムを所持した」旨の記載があるところ、原審第九回公判期日において、検察官から「午後一一時五〇分ころ、大阪市都島区中野町一丁目一番五号『さぬき家』前路上に駐車中の普通乗用自動車内において」とあるを「午後一一時一五分ころから同一一時五〇分ころまでの間、大阪市生野区巽東二丁目一八番二八号喫茶店『花』前路上、および同所から同市都島区中野町一丁目五号『さぬき家』前路上に至る普通乗用自動車内等において」と訴因の変更をしたい旨の請求があり、これに対し原審弁護人から両訴因の間には公訴事実の同一性がないので右訴因変更の請求には異議がある旨の意見が述べられたが、原審裁判所は、右訴因の変更を許可し、原判示第一の一のとおり、被告人の犯罪事実として、「被告人は、法定の除外事由がないのに、高〓三・キタ某と共謀のうえ、昭和五六年六月八日午後一一時一五分ころ、大阪市生野区巽東二丁目一八番二八号所在の喫茶店『花』前路上において、本件覚せい剤結晶状粉末50.906グラムを所持した」との事実を認定したことが認められる。ところで、右起訴状記載の公訴事実と訴因変更請求の事実とを対比すると、後者において所持の時間及び場所が拡張され、所持の態様に若干差異があるほかは、犯行の主体、所持の目的物は全く同一であり、所持の時間的・場所的範囲も、前者が「さぬき家」前路上における所持を訴因としたのに対し、後者は、「さぬき家」前路上の所持を含め、これに至るまでの約三五分間の継続した所持に拡張したものであり、前記「花」前路上及び同所から「さぬき家」前路上に至る自動車内における所持は継続した一連の行為であることに徴すれば、両者のうち一方の犯罪が認められるときは、これとあわせて他方の犯罪の成立を認め得ないという関係にあることが明らかであり、従つて、両訴因は基本的事実関係を同じくするものと解するのが相当であるから、公訴事実の同一性に欠けるところはない。

そうすると、原審裁判所が右訴因の変更を許可したのは相当であり、又原判決は、喫茶店「花」前路上における所持の事実のみを被告人の犯した所持罪と認定したが、右は、適法に変更された訴因である一連の継続した所持のうち一部分の所持を有罪と認定したものであるから、原審の訴訟手続には所論の如き法令の違反はないというべきである。論旨は理由がない。

第二、弁護人の事実誤認等の主張について

論旨は、原判示第一の一の事実について、被告人は単に覚せい剤の取引を仲介するため川村こと朴善男から本件覚せい剤結晶状粉末50.906グラムを受取り、数メートルの道路を横断して、これを高藤こと高〓三に手渡したもので、右覚せい剤を把持した時間も僅か数秒間であり覚せい剤取締法一四条の所持に該当せず、かつ被告人は朴と高との間の覚せい剤の譲渡行為を仲介する意思でしかなかつたのであるから、覚せい剤所持罪の正犯意思を欠き、故意ある幇助的道具となつたに過ぎない。しかるに、被告人の行為を覚せい剤所持の共同正犯に該るとして同法一四条、刑法六〇条を適用した原判決は事実を誤認し、法令の適用を誤つたものである、というのである。

しかしながら、被告人が原判示第一の一の所為に及んだ経緯、その行為の目的、態様、共犯者らとの関係、すなわち、原審で取調べられた証拠によつて認められるように、被告人は高から覚せい剤の入手方を依頼されるや、その諾否を自主的に決定できる立場にありながら、進んで同人の要望を受け入れ、はやばやと取引の手筈を整えるなど積極的に高らの覚せい剤密売買の企てに関与していること、しかも、本件のごとき大量の覚せい剤の取引に際しては、当事者間の信頼関係が重要な条件の一つであり、だからこそ、原判示・朴善男と懇意な関係にある被告人自身が、単に商談をまとめただけにとどまらず授受の現場に臨み、単身朴の自動車に乗りこみ、高から託された現金と引換えに朴から覚せい剤を受け取るつとめを果したこと、その後は、被告人の責任において無事・安全に右覚せい剤を高に手渡すため、これを所持したものであるところ、この間の所持は、被告人が高の依頼をかなえ、自ら買つて出た役割を遂げるうえでの総仕上げともいうべき行為であつたこと等の各事情に加え、後に説示するとおり、本件所持は高らに財産上の利益を得さしめるという目的を実現するためのものであつたこと等一連の情況をあわせ考えると、被告人が、短時間とはいえ、右覚せい剤を自らの実力支配下に置き覚せい剤不法所持罪の構成要件を実行したと認めるに十分であり、所論にいわゆる正犯意思(本件でいえば、被告人が高らに財産上の利益を得さしめる目的のもとに覚せい剤所持の実行行為を行なつているとの認識)に欠けるところがなかつたことは明白である。

してみると、被告人の原判示第一の一の所為を覚せい剤所持罪の共同正犯と認定判断した原判決には、所論のごとき事実の誤認ないし法令適用の誤りを犯した違法がなく、論旨は採用できない。

第三、検察官の事実誤認の主張について

論旨は、要するに、原判示第一の一の事実について、一般に覚せい剤の取引は、共犯者間に明示の話合があるなしにかかわらず、全員がもれなく利益を分配し合うのが通常であるところ、被告人は覚せい剤の密売が厳罰に処せられることを認識しながら、さして親しい間柄でもなかつたうえ、これまで全く取引のなかつた高の依頼をたやすく了承して、深夜にもかかわらず、待合わせ場所を指定した後朴に連絡して取引の承諾を得、その後も高と朴を引き合わせば足りるのに、積極的に現金・覚せい剤の授受をなし、更に高と山本某との取引現場に同行したことからして、金銭的利益を受けようとして本件犯行に及んだことは明らかであり、又、被告人と利益分配の約束をした旨の高〓三の原審公判廷における供述が十分信用し得るものであるにかかわらず、これを否定し、被告人のいわゆる自利目的を認定しなかつた原判決は事実を誤認したものであるうえ、共犯者に財産上の利益を得させる目的で覚せい剤を所持した場合でも営利目的による所持罪が成立すると解すべきところ、被告人のいわゆる他利目的を十分立証するに足る被告人の捜査段階における供述があるのにこれを看過し、他利目的の存否につき判断することなく、営利目的で本件犯行に及んだことについては証明が十分でないとした原判決はこの点でも事実を誤認したものであるというにある。

よつて案ずるに、覚せい剤取締法四一条の二第二項にいう「営利の目的」とは犯人がみずから財産上の利益を得る目的を有する場合のほか、第三者にこれを得させることを動機・目的とする場合をもいうものと解すべきこと所論のとおりである。

さて、原判決摘示の関係各証拠によれば、以下のような事実を認めることができる。すなわち、

昭和五六年六月八日午後六時頃、山本某から覚せい剤五〇グラムを一グラム当り九、〇〇〇円で注文を受けた高藤こと高〓三は、キタ某と相談のうえ転売による利益を得ようと企て両人で購入資金として三五万円を調達したものの覚せい剤入手の目処が立たなかつたため、高はかねてから被告人が大口の覚せい剤密売人と懇意にしている旨聞いていたことから、同日午後九時頃、被告人に対し電話で、覚せい剤五〇グラムを一グラム当り六、〇〇〇円で入手方依頼した。

一方、被告人は、高が覚せい剤を注射したり密売をしているらしいとの風評を耳にしていたところ、同人から右のような依頼を受けたので、同人が覚せい剤を転売して利ざやを稼ぐ目的であることを察知したが、同人は被告人の義姉(妻の姉)と交際のあつた男で、被告人自身かつて高方に遊びに行つたこともある間柄であつたことから、同人の申出に協力して儲けさせてやろうと考え、「心当りの人間に聞いてみるが、必ず手に入ると思うから岸田堂のロイヤルホストで一〇時半頃待つていてくれ。」とこれを了承し、高からの依頼を一〇〇グラムであると早合点して、知人の川村こと朴善男に対して、「私の知つている人が五〇グラム、三〇万円で一〇〇グラム欲しいといつている。」と注文し、同人から同日午後一一時頃喫茶店「花」で取引する約束をとりつけた。そこで、被告人は同日午後一〇時頃、前記ロイヤルホストに赴いたところ、高の注文した量が五〇グラムであつたことが判り、同人から現金三〇万円を預けられたうえ、被告人が余分に注文してしまつた五〇グラムの代金については、高において代金を用意していた分を思惑どおりに売れた段階で支払うようにすると告げられた。右のような経過ののち、被告人は高らを伴つて「花」前まで自動車で赴いたところ、折から朴も自動車で来合わせて道路の反対側に停車したので、被告人は高らを待たせて単身朴の車に乗り、三〇万円と引換えにビニール袋入りの覚せい剤一袋(判示第一の一の覚せい剤結晶粉末50.906グラム、以下原判示第一の一の覚せい剤とよぶ。)を受けとり、残り約五〇グラム(正確には判示第一の二の覚せい剤結晶状粉末48.243グラム、以下原判示第一の二の覚せい剤とよぶ。)は桜宮に行つてから改めて代金と引換えに引き取りたいとの高の意向を伝え、了解を得た。被告人は朴から受けとつた右覚せい剤一袋を持つて高らの所に戻り、高にこれを手渡したところ、高らは山本某との取引場所である桜宮に向け出発した。一方、朴は原判示第一の二の覚せい剤である残り約五〇グラムの始末をつけるため、被告人に自車を運転させて高らの後を追わせた。

以上のような事実経過が認められるところ、右認定事実によれば、被告人の原判示第一の一の覚せい剤の所持には、すくなくとも共犯者である高らに財産上の利益を得させる目的があつたものといわざるを得ない。

他方、被告人のいわゆる自利目的を認めるに足る証拠が不十分であるとした原審の認定判断の当否につき、関係証拠を調査して検討するに、高は、捜査段階以降ほぼ一貫して、覚せい剤の転売によつて得られる利益の一部を被告人にも分配する旨約束した、と供述しているところ、被告人が高の依頼にこたえて迅速かつ機敏に朴と連絡したうえ、覚せい剤の入手に力をかした経過に照らせば、被告人において、応分の利益にあずかり得るとの見通しがあつたればこそ、あえて取引現場に出向くなど検挙のおそれの少くない危険な役柄を引受けた疑いが濃厚であり、従つて、前記のような高の供述をにわかに措信しがたいと評価した原審の証拠判断をそのまま是認するのはいささか困難であるが、原審公判で直接被告人及び高の供述に接した原裁判所が両者の対立する言い分を虚心に吟味したすえ、利益分配の約束を否定する趣旨の弁解を貫いた被告人の供述にも、それなりの信用性を肯定する余地があると認め、結局のところ、自利目的の存在についてはなお証明が尽くされていないとの結論を選択している以上、当審においても、右のような原審の証拠評価を首肯し得ないわけではないから、原判断を尊重するのが相当であり、当審における事実取調の結果を参酌しても、右判断を左右するとは考えられない。

以上のとおり、原判示第一の一の事実につき、被告人に自利目的があつたとは認定するに足りないものの、結局は、営利目的で本件覚せい剤を所持したものと認められるのであるから原判決は事実を誤認したものというべく、右は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破棄を免れない。論旨は右の限度で理由がある<以下、省略>

(萩原壽雄 角谷三千夫 菅納一郎)

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